· 

ー 石清水八幡宮権宮司 田中朋清さんのおはなし会 ー


石清水八幡宮 権宮司 田中朋清氏のおはなし会。

私なりにその内容と感じたことを綴ってみました。

 

      **************************************************************************

 

自分の心の拠り所、信仰の対象を聞かれたとき、

自信を持って答えることのできる日本人はどのくらいいるだろう。

 

信仰、こと「宗教」という言葉を使うと

一気に話題に挙げにくくなる印象がある。

ある種のタブーというか、こういうことについては何となく

気軽に人には聞けないような雰囲気が、この国にはある。

 

「人は死んだらどうなるの?」

人の死について、どう考えたら良いかわからない人が増えているそうだ。

心はどうなるの?魂はどうなるの?

あなたは納得のいく答えを、自分の中に持ち合わせているだろうか。

 

石清水八幡宮の権宮司、田中朋清さんのおはなし会に参加して

自分の魂の奥底に眠る根源的な信仰や

死生観について考える機会を頂いた。

自分の信仰や、死生観について自分のことなのにわからないもどかしさ、

そしてこの国にそのような人が増えている現状とその背景について

田中朋清さんは権宮司という立場からだけではなく

数学者の立場、国連で平和活動を行う一人の人間としての立場から

湧き上がるような情熱と、たっぷりのユーモアを交えて語られた。

 

万物が祈りの対象になる類いまれなる日本で

もっとも原始的な祈りや祭りは縄文時代前期からはじまった。

私たちのご先祖様は自然の中にある巨木や岩、滝、山などに祈りを捧げ

様々な祭りを行ってきた。

 

それはもちろん、幸せや豊穣を願う祈りもあるけれど

日本人は祟り神などの恐ろしいものに対する信仰も持っていた。

 

信仰のスタートは、地域の安寧を願う祈りだという。

地域によって祭りや祈りの方法は違えど、根っこの部分はみんな同じだった。

祭りは人の心をワクワクさせ、人と人との縁を繋ぐ大切な行事だった。

今でも、祭りをしっかりと取り行っている地域の方が人々の幸福度は高いそうだ。

かつての日本では、お互いがお互いの幸せを祈り合い、祭りを通じて縁を結び

地域がまるで一つの家族であるかのような空気感があった。

 

また、祭りは文化や産業を発展させた。

日本の伝統工芸品のほとんどは、祭りで使われたものが元になっているという。

 

しかし、明治に入って神仏分離令が出され、地域の信仰が壊されていくことになる。

外国の神様として日本に受け入れられた仏教、その仏教職も神社の神職も、

神仏分離令によって職や財産を奪われ追放される。

田中朋清さんの家系も元々は仏教職だったそうだが、この時に職も財産も全てを失ったという。

その後神社仏閣には官僚が派遣され、それぞれの職につくようになった。

官僚神職たちは死を「穢れ」と捉え、この頃から神職は死に関わらなくなった。

そしてお坊さんたちがお葬式やお墓など、死にまつわることを担当するようになっていく。

 

また、神社合祀政策という政策の元、小さな神社は大きな神社に統合されていった。

この政策は南方熊楠が「日本の国を破滅に導く」と批判し、後に中止されることになる。

しかし、この政策により多くの神社が失われてしまった。

このようにして地域の歴史、文化、伝統は、少しずつ姿を消し

かつての死生観も失われていくこととなった。

 

現在の日本では、歴史・文化・伝統を学ぶ場所がなくなってきていると田中朋清さんは嘆く。

伝統や文化、祈りはご先祖様たちの愛の結晶であり

その愛情を感じ取って後世に伝えていくことが何より大事だという。

 

私たち日本人は、鎮守の森で、多種多様な形で、人々のために祈ることで

自分たちの生活を創り、守ってきた歴史がある。

その中には常に、様々な信仰や祈り、死生観が息づいていた。

 

「お互いの幸せを願い合える関係になれば、世界は平和になる」

これは、今回おはなし会で最も心に残った田中朋清さんの言葉だ。

 

それぞれの人が、自分の足元にある地域の文化を取り戻し、次の世に伝えることで

人と人とのつながりが生まれ、ご先祖様の愛情の結晶を繋いで行くことができる。

これがきっと、命のバトンを繋ぐリレーの最前線を走る私たちにできる

1つの恩送りなのだと感じた。

 

このテラコ屋の活動も、かつてのお祭りのように

人々を繋ぎ、笑顔をつくり、歴史・文化・伝統を伝え合うことのできる

地域の心の拠り所のような場所に育って欲しい

そう思った。

 


ノア

テラコ屋のインタビュー係。ネコと甘いものに目がないアラサー女子。

いつか澤井家住宅でクリスタルボウルと一緒に歌うのが夢。